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1930年代、ふたりのポルトガル商人がIWCを訪れたことに由来する、

かつて「インターナショナル・ウォッチ・カンパニー」と呼ばれたIWCの歴史は1868年、アメリカ人時計師のフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズによって始まった。彼はアメリカの先端技術とスイス伝統の職人技を融合させる夢を実現するため、欧州最大級の水量を誇るライン川の水力発電を利用しようとスイスのシャフハウゼンを訪れた。IWCがスイス時計の名門でありながら、独特の質実剛健な雰囲気と、革新への挑戦的な気質を持つ理由は、創業者がアメリカ人だったこと、そしてスイス時計産業の中心から遠く離れたドイツとの国境の町シャフハウゼンで時計製造を続けたからにほかならない。

 長い緩急針やバイメタル補正テンプを備えたジョーンズ・キャリバーで成功したIWCは、世界初のデジタル表示式懐中時計など数多くの傑作を世に送り出す。確かな技術力に華麗な装飾をまとった時計は、多くの王侯貴族に愛された。

 IWCの“近代”が始まったのは1930年代だ。現在に続くパイロット・ウォッチ・シリーズのルーツとなるIWC初の航空用腕時計が、1936年に口火を切った。さらに3年後の1939年、上品な高精度ウォッチのルーツとなるポルトギーゼが生まれた。この大型ウォッチもまた、IWCが誇るもうひとつのフラッグシップへと成長していくのだ。

ポルトギーゼ・オートマティック 40

ホライゾンブルーダイヤルを備えたポルトギーゼ・オートマティック 40。

今から90年ほど前、ふたりのポルトガル商人がシャフハウゼンのIWC本社を訪れ、「マリンクロノメーター(甲板時計)に匹敵する高精度な航海士向け腕時計」の製作を依頼した。IWCは懐中時計用の高精度キャリバー74を、当時の腕時計にしては巨大な41.5mm径ケースに搭載。これが1939年に完成した初代ポルトギーゼ(ポルトガル人の意味)、Ref.325だ。視認性に優れたシンプルなアラビア数字や、スリムなリーフ針とベゼル、大型ケースの組み合わせは当時の懐中時計に倣ったもので、現行モデルにも継承されるアイコニックな意匠が、すでに初代モデルから揃っていたことに驚かされる。


オリジナルのポルトギーゼ Ref.325(1939年)


ポルトギーゼ・ジュビリー(1993年)

IWCスーパーコピー代引き 激安その後、キャリバー98にアップデートしつつRef.325は継続販売されたが、やはり時流的には大きすぎたのだろうか。生産中断を経て、あらためてポルトギーゼが姿を現したのは1993年、IWCの創業125周年を記念した特別限定生産モデルであった。このポルトギーゼ・ジュビリーは、キャリバー98直系のキャリバー9828を鑑賞できるトランスパレントバック仕様に改められたのを除いて、ほぼオリジナルを忠実に再現していた。世界の時計愛好家たちに熱烈に支持され、IWCは以後、ミニッツリピーターやクロノグラフを1995年に発表するなど新生ポルトギーゼをレギュラー化。一方、Ref.325譲りの日付のないスモールセコンド仕様が40mm径でレギュラーに加わったのは、少し遅れて2020年からとなる。

 2024年新作のポルトギーゼ・オートマティック 40は、その初代モデル直系となるスモールセコンド仕様のケースデザインを見直しつつ、表裏ともに硬質で透明度の高いボックス型サファイアクリスタルを採用。文字盤とムーブメントの両面を、よりクリアに鑑賞することが可能になった。

 “ホライゾンブルー”と名付けられた淡いスカイブルーのダイヤルは、昼下がりの太陽から降り注ぐ光と、シャフハウゼンに広がる澄み切った青空を表現したもの。透明なラッカーを15層も塗り重ねて奥行き感を出し、艶やかな光沢を放つまで研磨とポリッシュ仕上げを施すなど、60工程もの複雑なプロセスを経て完成する。その最終段階で、ひとつずつ手作業で設置していくアプライドインデックスと、繊細なリーフ針はロジウムメッキ仕上げだ。明るいホライゾンブルーの光をまとったサンバースト仕上げのフェイスに、スリムになった18KWGケースの輝きとサントーニ社製カーフストラップの色彩が、実に優雅に呼応している。

 搭載ムーブメントは、セラミック製パーツを使ったペラトン式自動巻き機構採用の自社製Cal.82200。約60時間のロングパワーリザーブを備えた実用性の高さもIWCらしい。

ポルトギーゼ・オートマティック 40

ポルトギーゼ・クロノグラフ

デューンダイヤルを備えたポルトギーゼ・クロノグラフ。

創業125周年を祝して限定復刻したポルトギーゼ・ジュビリーの好セールスを受け、1995年に量産化されたのがポルトギーゼ・クロノグラフ・ラトラパンテ、Ref.3712である。ETA7750の自動巻き機構を省いたかわりに、リチャード・ハブリングが開発したスプリットセコンドモジュールに乗せ換えた手巻きムーブメントを搭載しており、センター軸から伸びる2本目の秒針と10時位置のボタン追加によって、ふたつのタイムを同時に計測できた。その複雑機構に加えて特筆すべきは、スポーティにしてエレガントな文字盤デザインだ。スリムなリーフ針やアラビア数字インデックスなどポルトギーゼのエッセンスを継承しながら、サブダイヤルを縦に配した独自のレイアウトと、8振動/秒に合わせたインナーフランジの1/4秒目盛りで、計測時間を正確に表示する。


ポルトギーゼ・クロノグラフ・ラトラパント(Ref.3712)


ポルトギーゼ・クロノグラフ(Ref.3714)

 1998年には、スプリットセコンド機構を外して自動巻きに戻したCal.79240搭載のポルトギーゼ・クロノグラフ Ref.3714が誕生した。ベゼルレスに近い大口径の文字盤と繊細なアラビア数字、スモールセコンドと30分積算計の窪んだインダイヤルなど、シンプルで上品なデザインを完璧に受け継ぎ、その構成要素は現在までの26年間、ほぼ変わることがなかった。2020年に自社ムーブメントCal.69355にアップデートされたのを機に、従来のメタルバックがトランスパレントバックとなって魅力を高めたが、やはり文字盤デザインには手を付けていない。時代を超越し、長期にわたって人々から愛され続ける“ロングセラー”とは、まさにこのような時計のことを指すのだ。

 2024年に誕生したポルトギーゼ・クロノグラフ(デューン)も、まったくその延長線上にある。新作4モデルのうち唯一、従来と同一形状のケースが採用されており、41mm径×13.1mm厚のサイズにコラムホイールと垂直クラッチを備えた46時間パワーリザーブの自社製Cal.69355を搭載。1995年のデビュー以来、伝統と品格を兼ね備えたクラシカルな王道デザインのポルトギーゼに新しい文字盤カラーが新鮮な印象を与えている。

 テーマカラーの“デューン”は、シャフハウゼンに沈みゆく太陽の黄金の光に包まれた夕暮れ時がインスピレーションの源だ。ほかのバリエーションと同じく真鍮ベースにサンバースト加工を施し、カラー塗布の後に15層の透明なラッカーを重ねて磨き上げ、ハイグロス仕上げとしている。水運交易で栄えた中世の建築物が残る風光明媚なシャフハウゼンを包む黄昏の色彩は、ユーザー個々の郷愁を誘うノスタルジックな美しさに満ちている。

ポルトギーゼ・クロノグラフ

ポルトギーゼ・オートマティック 42

オブシディアンダイヤルを備えたポルトギーゼ・オートマティック 42。

軍用ならまだしも、1930年代の市販用としては大きすぎた41.5mm径の初代ポルトギーゼだったが、ミレニアムイヤーとなり、ようやく時代が追いついてきたようだ。2000年に2000本が限定発売されたポルトギーゼ・オートマティック 2000は、42.3mmの堂々たるケースを採用し、一見クロノグラフにも見える文字盤のサブダイヤルは、9時位置がスモールセコンド、3時位置はパワーリザーブ表示だ。アプライドのアラビア数字や細身のリーフ針など、オリジナルモデルのクラシックなデザインを踏襲する一方、IWC技術陣はそこに21世紀の始まりを記念するにふさわしい最高の機能を盛り込んだ。すなわち、5年もの開発期間を経て完成した自社キャリバー5000である。偉大な懐中時計の伝統を受け継ぐ当時世界最大級の自動巻きムーブメントは、直径38.2mmの堂々たるサイズに驚異の7日間パワーリザーブを有し、しかも双方向巻き上げ式のペラトン爪レバー式自動巻き機構というIWCの伝統技術も復活させた。


ポルトギーゼ・オートマティック 2000

 2004年に通常生産モデルとして再デビューを飾ったポルトギーゼ・オートマティックは、6時位置にデイト表示を備えてキャリバー50010となり、翌年には緩急針のないフリースプラングテンプが採用され、さらに振動数が毎時1万8000振動から毎時2万1600振動に引き上げられたキャリバー51010へと、飽くなきアップデートを続けた。

 ご存じのように機械式時計のパワーリザーブとは、ゼンマイが完全に巻き上げられた状態から時計が停止するまでの作動時間のこと。IWCの50000系キャリバーは、長さ875mmの主ゼンマイにより、実質8日半作動するエネルギーを秘めながら、トルク低下による精度悪化を防ぐため、1日半の余裕を持たせて7日間が経過すると自動的に停止する仕組みだった。これもIWCが質実剛健といわれる理由である。

 2015年、50000/51000系キャリバーは過去最大級の進化を遂げ、新世代の52000系キャリバーが誕生する。大型香箱をふたつに分割することでスペースの余裕を生み出し、そのぶん輪列のレイアウトを最適化して中間車を減らした。こうしてトルクロスを抑えて高効率化した結果、キャリバー52010は毎時2万8800振動にハイビート化しつつ7日間パワーリザーブを堅持。さらに、ペラトン自動巻き機構の巻き上げ爪と自動巻きホイール、ローター軸受けをセラミック製とし、摩擦をほぼ排除して耐久性も向上させた。

 2024年新作のポルトギーゼ・オートマティック 42は、信頼性の高い52000系キャリバーを、精巧なサーキュラーグレイン仕上げとコート・ド・ジュネーブ装飾を施して継続採用している。一方、18Kレッドゴールドの42.4mmケースは、ベゼルを低くして裏の厚みを抑え、全体をスリムに見えるよう設計が変更された。そして漆黒の夜空と、金色に輝く街の夜景を表現したデザインコード“オブシディアン”を投入。黒曜石の文字盤にサンバースト仕上げを施し、ラッカーを塗り重ねたあとで丁寧にポリッシュ仕上げを繰り返し、透き通るように艶のあるブラックの質感を生み出した。新しいボックス型のサファイアクリスタルを通して、ゴールドのアプライドインデックスとゴールドメッキの針が、ブラック文字盤に浮いているようにも見えて神秘的だ。

ポルトギーゼ・オートマティック 42

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 44

シルバームーンダイヤルを備えたポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 44。

1年の長さは、厳密には365日5時間48分46秒。現在、我々が使っているグレゴリオ暦では、これより約4分の1日短く、4年ごとに2月29日を設けて差を調整している。そのため西暦の数字が4で割り切れる年はすべて閏年だ。しかし、これではグレゴリオ暦のほうが実際よりわずかに長くなるため、西暦の末尾が“00”となる年は400で割り切れる年のみを閏年と定めた。2100年、2200年、2300年は2月28日までしかないが、2000年や2400年は閏年になって2月29日が存在するわけだ。

 その難解なグレゴリオ暦を制するため、IWCの主任時計師クルト・クラウスは1985年に世界初の永久カレンダー・クロノグラフであるダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダーを開発した。グレゴリオ暦の例外となる2100年まで修正や調整が必要ないのはもちろん、一般的な日付ディスクを動力源に、すべてのカレンダーを動かすという斬新なアイデアで部品数を大幅に減らし、しかもリューズを回すだけですべてのカレンダーを簡単に進めることができた。122年で1日しかずれない高精度なムーンフェイズや、アイコニックな2499年まで表示できる4桁の西暦表示を含めて、時計愛好家たちの心をわしづかみにした傑作だ。


ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー(Ref. 5021)

 この画期的かつ実用的な永久カレンダーモジュールを、ダ・ヴィンチはETA7750に載せていたが、7日間駆動の旗艦ムーブメントである前述の自社キャリバー5000に統合したのが、2003年初出のポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー Ref.5021である。特殊な減速輪列の採用により577.7年に1日のずれしか生じない高精度なムーンフェイズは、南北半球の月の満ち欠けを同時表示する、IWCらしい独創的な仕様となった。

 2024年新作のポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 44は、ベースムーブメントに新世代52000系を採用した、さらなるアップデート版Cal.52616を搭載している。クルト・クラウス式永久カレンダーをはじめ、ダブルムーンフェイズ、4桁の西暦表示、セラミックを使ったペラトン自動巻き機構付きのツインバレル7日間パワーリザーブなど、44.4mmケースに望みうるすべての機能を収めた、まさにIWCのオート・オルロジュリーを象徴する存在と言える。

 従来のレッドゴールドより硬度を高め、耐摩耗性を向上させた18K Armor Gold®採用の新型ケースは、スリム化したケースリングと表裏のボックス型サファイアクリスタル採用によって、横から見るとよりエレガントな印象だ。月面を思わせる白銀の輝きを表現した“シルバームーン”の文字盤は、他と同じく複雑なプロセスで精巧に作られており、真鍮とラッカー層から削り出した4つのサブダイヤルと相まって、極めて重層的に作り込まれている。この格調高いシルバーメッキの文字盤も、ソリッドゴールドのローターとブラックセラミックの歯車が際立つトランスパレントバックも、まるで永遠の宇宙とつながっているかのように神々しい。

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 44

 1993年に復活したポルトギーゼは、いまやIWCのアイコンといっていい存在となった。大型ケースの力強い存在感と、気品漂うエレガントな意匠、技術の粋を投入した高度な機能性は、各ラインナップのオリジンから脈々と継承されてきた歴史的な正統性も持ち合わせている。そんな安定感のあるロングセラーだからこそ、創業の地シャフハウゼンへのリスペクトを込めた2024年新ポルトギーゼの4つの色彩は、IWCファンならずとも嬉しいサプライズとなったはずだ。しかも“時の移ろい”を愛する日本人の心情にも深く共鳴する。デザイン的に完成の域に達しているコレクションでありながら、さらなる進化の余地があることを証明したとも言える。

 そして機能的な進化の可能性については、同時に発表された新作ポルトギーゼ・エターナル・カレンダーが確かな裏付けとなる。前述したグレゴリオ暦の例外、すなわち、400年に3回スキップする閏年には手動による調整が必要だった従来の永久カレンダーに対して、この超複雑時計は4世紀で1回転する400年歯車によって、その例外さえも自動調整することが可能な、IWC初のセキュラー・パーペチュアル・カレンダーとなった。また、南北半球の月齢を同時に表示するダブルムーン™は、4500万年にわずか1日分の誤差という桁外れの超高精度を実現している。

 こうしてポルトギーゼ・コレクションは機能的にもデザイン的にも限界を超えて進化を続け、未来永劫にわたって我々の心を揺さぶり続けるのだ。

パテック フィリップコーナーがブティックさながらの設えでリニューアルオープン。

杜の都、仙台の美しい新緑が広がる定禅寺通に位置するHF-AGE仙台店のパテック フィリップ・コーナーが、6月8日(土)にリニューアルオープンを迎えました。HF-AGEは1989年に創業し、今年で35周年。実はHF-AGEでパテック フィリップの取り扱いが始まったのは1997年からで、当時は高崎の店舗の奥に構えられた小さなショーケースからのスタートだったそう。現在もパテック フィリップの正規販売店は、東北6県でHF-AGEが唯一です。


約700mの定禅寺通には4列166本の美しいケヤキ並木が並び、その美しい様子はHF-AGEの店舗の窓ガラスに映る。

今回のリニューアルでは、仙台店に隣接するスペースにフロアが拡張され、パテック フィリップ専用の新たなコーナーが設けられました。コーナーではありますが、路面にもパテック フィリップのブランドロゴが掲示されており、まるでブティックのような印象です。パテック フィリップの最新コンセプトが導入されたコーナーの延べ床面積はこれまでの3倍となる約100㎡に増加し、ゆったりとした応接スペースも設けられています。


VIPルーム

また、口コミ第1位のパテックフィリップスーパーコピー代引き専門店エッセンシャル・メンテナンスルームも設置されているため、ストラップ交換やブレスレット調整、バッテリーサービスなどのメンテナンスもその場で受けることが可能です。これらのサービスは、スイスでパテック フィリップの認定を受けた専門スタッフによって提供されるとのこと。


プラン・レ・ワットの新工場完成を記念したスティール製のカラトラバ
6007A−001。


2024年新作のワールドタイム 5330G。

店内には今回のオープニングに合わせて、2024年新作モデルをはじめ、パテック フィリップの創業175周年を記念したモデルを含む約40本の貴重な時計が展示されていました。展示品のなかには、同店で購入されたお客様からお借りしているものも一部含まれており、普段めったにお目にかかることのないものもありました。

 HF-AGE仙台店の新しいパテック フィリップ・コーナーは、仙台のみならず東北6県のパテック フィリップのファンや時計愛好家たちにとって重要な拠点となることは間違いないありません。


パテック フィリップ創業175周年を記念したワールドタイム5575G-001。


同じく175年にわたるウォッチメイキングを記念した限定のクログラフ 5975J-001。


パテック フィリップ ウォッチアート・グランド・エキシビション / 東京2023で発表された限定のワールドタイム 5330G-010。


こちらも東京開催のグランド・エキシビションで登場した希少なハンドクラフトからカラトラバ 5089G−125《蜜柑と花を配した鍔》。


ハンドギヨシェとクロワゾネエナメルのダイヤルが特徴的な10本限定のカラトラバ 5077/100R-057《花柄の着物》。

HF-AGE仙台店

住所: 宮城県仙台市青葉区国分町2丁目14−18定禅寺パークビル1F
お問い合わせ: 022-711-7271
営業時間:11:00〜19:30(水曜定休)

エルメスのコレクションに36mm径の機械式スポーツウォッチが加わった。

エルメスは主に女性をターゲットとする機械式ムーブメントを搭載した36mm径のスポーツウォッチの新ラインを発表した。カットは“メンズ”のH08よりも小さく、丸みを帯び、ソフトな印象だ。私の第一印象は、シンプルでクリーン、そして分かりやすい(そして商業的に成功しそうな)時計であり、このカテゴリーの成長に向けて全速力で前進し続けるというブランドの意思を証明するものである。

エルメスの時計は、1970年代にジャン=ルイ・デュマ(Jean-Louis Dumas)がエルメスを改革して以来、ファッション愛好家やブルジョア消費者のあいだでは定番の存在となっている。アルソーやケープコッドのようなシグネチャーモデルの人気は大衆市場においてピークと下降を繰り返したが、純血主義的な愛好家グループ外に存在する古くからの時計愛好家や、ファッションにこだわる人たち(マルタン・マルジェラによるダブルツアーのアイデアを参照)のあいだでは不動の人気を誇っている。5000ドル前後のエントリーレベルでの成功は、これまでは馬術にインスパイアされた見栄えのするデザインと、文字盤のエルメスブランドのパワーによってもたらされるものであった。

Hermes The Cut with interchangeable straps
自社製機械式ムーブメントを搭載し、エナメルや象嵌細工などの複雑な装飾を施したハイエンドモデルの増加によってエルメスの時計部門は近年成長を続けているが、これはメゾンが新たな1歩を踏み出したことを意味する。この時計分野における勢いを支えているのはH08の成功だ。H08は現代のエルメス顧客のニーズに応えるために考案された、インダストリアルな外観を持つ21世紀のスポーツウォッチである。エルメスの年次活動報告書によると、2023年の売上高に占める時計の割合は、2020年の3%に対して5%と上昇している。これは切り分けられたパイの小さなひと切れのように見えるかもしれないが、そのパイは巨大でしかも着実に成長している。2023年の連結売上高は134億ユーロに達し、2020年の64億ユーロから大幅に拡大している(成長率100%以上)。エルメス・オルロジェの売上高にはAppleWatchのブレスレットは含まれていない。高級レザー製のハンドバッグを主な商品とするエルメスにとって、時計が事業全体と同じペースで推移しているだけでなく、右肩上がりで伸びていることは大きな勝利である。

すべてのエルメスバッグスーパーコピー 代引きが同じように作られてきたわけではない。多くの人がクォーツムーブメントの副産物だと主張するようなものからレザーグッズカテゴリの主力となるような製品に至るまで、そのリリースは長い道のりを歩んできた。そして今日ではエルメスは機械式時計の分野で正当な地位を確立している。同社は2006年にはパルミジャーニ・フルリエのヴォーシェ・マニュファクチュール(ムーブメントを製造)の株式を取得し、2012年にはラ・ショー・ド・フォンのナテベールSA(文字盤を製造)、2013年にはル・ノワルモンのジョセフ・エラールSA(ケースを製造)を買収している。2017年にはケースと文字盤の事業部門はル・ノワルモンに集められ、“Les Ateliers d'Hermès Horloger”と命名された。今年2月に発表されたモルガン・スタンレーの第7回スイス時計年次報告書では、オートオルロジュリー(平均販売価格30万ユーロ前後の時計)に力を入れ、毎年100本前後を販売することでエルメスの時計製品の位置づけを再構築し、ブランドの時計としての魅力を高めている(ハロー効果として知られる戦略)と報告しされている。

エルメスは時計市場のダイナミックな嗜好の変化を受け入れてきた。ビジネス・オブ・ファッションによると、エルメス・オルロジェのローラン・ドルデ(Laurent Dordet)CEOは、同社の売上の80%を女性が占めていると述べている(ただし、これが本数で測られているのか、売上額で測られているのかは不明)。自社製ムーブメントであるCal.H1912を搭載した“女性のため”の腕時計であるカットは、まさにメンズとレディースの中間に位置する製品である。比較的ニュートラルなデザインにとどめて直径36mmという中性的なサイズを打ち出すことで、メゾンはこの時計を分け隔てなく手に取れるように配慮している。女性向けの商品でありながら、誰が何を着用すべきかを押し付けるのではなく、消費者に判断を委ねているのだ。

カットはエレガンスのなかにもスポーティさがある。このモデルはエルメス流のスポーツウォッチでありながら、そのデザインはエルメスそのものであり、現在市場に出回っているスポーツウォッチの派生モデルとは一線を画している。より無骨でインダストリアルなH08よりも主張しすぎないシルエットで、スリムで身につけやすい。現在この時計には36mm径のなかでバリエーションを用意しており、交換可能なラバーストラップにはメゾンのレザーコレクションをイメージしたカラーも見られる。もっとも手に取りやすいモデルが93万8300円(税込)で、ステンレススティールとローズゴールドのコンビにダイヤモンドをあしらったモデルが226万6000円(税込)となっている。

H08の成功を踏まえれば、より幅広いスポーツウォッチファンの需要に応えるためになぜH08を縮小しなかったのだろうか、という疑問も湧くかもしれない。SS製スポーツウォッチが飽和状態にあるのは事実だろう。“ジェラルド・ジェンタがてがけた”以外のブランドにとって、新しい“女性向け”スポーツウォッチ(この市場での成功は非常に難しいことで知られている)の展開は困難なものであることは間違いない。画一的であることが正解だとは必ずしも限らないのだ。

「大きなモデルを縮小して小さなサイズにすることが、必ずしも正しいアプローチとなるわけではありません」と、エルメスウォッチのクリエイティブ・ディレクターであるフィリップ・デロタル(Philippe Delhotal)氏は言う。「仮にH08を小さいサイズで作ったとしても、プロポーションが適切なものになったかはわかりません。だからまったく新しいデザインにしたのです」

カットをラインナップに加えることは、双方向へのアプローチによって成功の可能性が高まることを意味する。H08が現在、女性の一部で受け入れられているようにカットは間違いなく多くの男性顧客に支持されるだろう。

2023年発表のエルメス H08 クロノグラフ。モノプッシャータイプのクロノグラフを搭載。

デザインはエルメス・オルロジェ(特に中価格帯の製品群)において非常に重要であり、かつうまく機能する方程式に則っている。それによって競合する中堅どころの機械式スポーツウォッチとは一線を画しているのだ。時計はスイスで製造されているかもしれないが、エルメスはフランスの規範を持つフランスのメゾンである。

「メゾンの価値観、グラフィックチャート、そしてメチエ(専門技術)を横断する多くのクリエーションにどっぷりと浸かってきました」と、このメゾンで16年間勤務しているデロタル氏は語る。「時計であれ、あるいはまったく別のものであれ、何かをデザインする前には必ずエルメス的な感覚、フランス的な味付け、ひいてはパリ的なニュアンスが入り込んでくるものなのです」

Erin O’Keefe’s colourful set at Watches and Wonders 2024
Watches&Wonders 2024のエルメスブースに見られた、リン・オキーフ(Erin O’Keefe)の造形物。

カットのケース形状とそのなかに見られる図形(クッションケースのなかにサークルがある)は、エルズワース・ケリー(Ellsworth Kelly)氏と彼の幾何学的な抽象画、あるいはソフィー・タウバー・アルプ(Sophie Taeuber-Arp)氏の完璧な円形と長方形からなるフォルムを思い起こさせる。実はカットのアイデアは、2015年にエルメスがポンピドゥー・センター・メスで開催した 『Formes Simples』という展覧会を元にしているという。

「10年前、私たちはエルメスのクリエイションとアウトプットを振り返りました」とドルデCEOは説明する。「最終的に私たちは常に時代を超越したシンプルな形、つまりギリシャ彫刻からブランクーシ(Constantin Brâncuşi)やジャン・アルプ(Jean Arp)のような近代芸術家、さらにはアニッシュ・カプーア(Anish Kapoor)が生み出した先史時代から存在する人工的なシンプルな形に焦点を当てるという結論に達しました。シンプルに見えて、決してシンプルではないもの。そのアイデンティティはディテールから引き出されます」

そしてこの場合のディテールとは、蹴り出された時計のエッジにある。そう、 カットだ。

時計のエッジは丸みを帯び、左右のケースの側面にはまるで丸石に切り込んだかのような(あるいはなめらかに浸食したかのような?)カットが施されている。またリューズは1時30分の位置にあり、両側のカットラインを邪魔しないようになっている。コンセプチュアルであり、アイデンティティを表現する形状というやや高尚なアイデアに加えて、エルメスの小さなシグネチャーもあちこちに散りばめられている。Hのエングレービングにラッカー仕上げが施されたリューズ、グレーとオレンジのアクセントが効いたミニッツトラックと、SS製モデルにおいてその上を流れるエルメスオレンジの小さなドットが光る秒針、そしてH08とは異なるデザイン性の高いタイポグラフィなど、カットは独自のデザイン言語によって生み出されている。

時計の文字盤にグラフィカルなタイポグラフィを用いるのはエルメスならではの感覚だ。

「時計製造の世界では、タイポグラフィを優先することはあまりありません」と、デロタル氏。「タイポグラフィはそれ自体がメチエであり、文字盤のデザインに取り入れるにはリスクが伴います。伝統的なインデックスを採用すれば、そのようなリスクはありません。しかし完全なシンメトリーではなく、少し風変わりな12の数字をデザインする場合、自分の仕事を増やすことになります。それはそう簡単なことではありません」

しかしそれこそがエルメスの素晴らしさであり、彼らは時計製造において、またそれ以外においても伝統とモダニティのバランスを取る方法を心得ているのだ。

エルメスのビジネスが好調であることは明らかであり、その時計部門はCovid以降に見られた急成長の一翼を担っている。H08は従来の中価格帯のエルメスウォッチの概念を覆しただけでなく、ブランドのファン層を“シリアス”な時計愛好家と位置づけられる層にまで拡大した。現在、カットはH08年の成功とエルメスのオート・オルロジュリーに対する評価の高まりという追い風に乗っている。しかし中世のスイスをルーツとしない新しいSS製スポーツウォッチを、私たちは喜んで受け入れることができるだろうか? 文字盤からエルメスを外し、JLCを加えれば、おそらくコメント欄は万人からの賞賛で埋め尽くされるのではないだろうか?

マルタン・マルジェラの90年代風の脱構築的テイストに乗ったケープコッドが発売されたときのように、このスポーツウォッチは今の時代にマッチしており、女性(そしてもちろん男性も)にとって手に取りやすく理解しやすいものとなっている。今日、私たちはアスレジャーの時代に生きている。アスレジャーとは、快適であることを大前提に素材にこだわったハイテク製品の総称だ。アスレジャーはもはやそれ自体がファッションステートメントではなく、アパレル業界の隅々にまで浸透している。

同じことがSS製スポーツウォッチにも言える。もはや当たり前の存在になってきているのだ。最近の高級ファッション界隈においては、ロゴや モノグラムよりも糸番手やカシミア混率が重要視されるようになり、アスレジャータイプのアイテムに熱狂する消費者が増えている。現代において成功を示す本当の指標はあまりに普遍的すぎて気に留められなくなるような商品となることなのかもしれない。ロロ・ピアーナのセーターとか、ザ・ロウのハンドバッグとか、あるいはルルレモンの黒いレギンスとか。(ケリーやバーキンのバッグは別として)エルメスは控えめながらもしっかりとブランドをアピールする巧みな舵取りを行っている。メゾンはブランディングを最小限にとどめ、セレブを起用したプロモーションもない。エルメスは自らの価値を熟知しているのだ。

カットはエルメス流のスポーツウォッチで、エレガントかつデザイン性に優れ随所にオレンジのニュアンスが散りばめられている。時計の本質そのものはシンプルだが、シンプルであることを正しく表現するのは至難の業だ。商業的にわかりやすく消費するために作られた時計であることは明確で、このことについて問われてもブランドは少しも動じなかった。エルメス・オルロジェは、(香水と同様に)卸売りも行っている唯一の高級宝飾ブランドであることを忘れてはならない。

今のところ、エルメスのビジネスは揺るぎない。おそらくどんな時計を発表しても収益が伸びるほど事業は好調なのだろう。エルメスが真の時計メーカーであるかどうかはともかく、カットは今日の消費者の要求にきちんと応えたものであり、このモデルはエルメスを時計も作るラグジュアリーメゾンではなくウォッチブランドとして位置づける一助となるはずだ。